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男女共同参画事業
【育児支援】
 ● 《事例レポート》 
 児童手当の「アクセス」と「コントロール」

宮川朋子(正会員、JICA勤務)

筆者の宮川さんの講演があります。

●「子育て世代のお金と時間の投資塾!〜ライフプラン講座」(2回講座)
講師:宮川朋子さん
日時:2008年11月7日(金)・27日(木) 10時〜11時30分
場所:埼玉県さいたま市大宮区 桜木公民館和室
主催: Happy Family サポーター HUGHUG
詳しくはhttp://hug.shichihuku.com/menu_fp1107.html


6月に長男を出産した。さすがに3人目ということもあり安産で、母子ともに順調である。
とはいえ年齢が年齢だけに、皆から「産後はゆっくりしてね。大事にしてね。」といわれる。確かに、どの育児本を見ても、「産褥期は体力の回復につとめてゆっくりしましょう」などと書いてある。
しかし、人間がひとりこの世に誕生したからには、のんびりとはしていられないのである。


児童手当、消費か、貯蓄か、運用か

そして、「児童手当」の申請手続きである。少子化対策とはいえないだろうが(これを欲しいがために子どもを産もうと思う人は少ないだろう)、育児支援にはなる。

この児童手当は1972年からはじまった制度である。支給額やら支給対象児童の年齢、所得制限の見直し、支給対象期間などなど、開始以来かなり改定をかさねてきており、現在は出生から小学校修了前までで、第2子までは5,000円/月、第3子以上は10,000円/月である。3歳未満は出生順位に関係なく10,000円/月となっている。

このお金は年に3回にわけて、「主たる家計の生計維持者」の金融機関口座に振り込まれる。(自治体によっては窓口で手渡しされていることもある。)
支給対象は実は「養育者」であり、子どもに対して支払われるものではない。つまり、「育児にかかるお金を補助」して家計を助ける、という考え方の制度なのだ。

この児童手当、皆はどのように活用しているのだろう。
一人子どもが生まれたとして、小学校修了前までに総額90万円もらえるわけだ。これを単なる家計の補助としてすぐに消費してしまうのではなく、のちのちの教育費への足しにすべく貯蓄、いや、できればがんばって運用したいところである。たとえば、この手当を年利2%複利で積み立て運用したら、なんと受給修了までには1,875,900円になるのである。もらってすぐ使ってしまうのはあまりにももったいないではないか。

さて。この、消費か、貯蓄か、運用か、という決定は家庭では誰が下すのであろうか。家族会議で話し合って決められれば理想的であるが、ここで考えてみたいのは、この手当の支給対象が「主たる家計の生計維持者」であるということである。

「主たる家計の生計維持者」を「世帯主」と読みかえると、厚生労働省の平成18年度の統計によれば、現在の日本における世帯主は約85%が男性である。つまり児童手当は、大抵の場合「お父さん」の口座に振り込まれている。このお父さんの口座に入るお金に、お母さんはどのくらい「アクセス」できるのか。どのくらい「コントロール」できるのであろうか。


アクセスとコントロール

この「アクセス」と「コントロール」という観点は、社会調査において調査対象地域の人間関係やパワーバランスを分析するのに有益なもののひとつである。

「アクセス」とは文字どおり、そのリソース(資源)に「アクセス」(接近)できる状態である。この場合で言えば、児童手当のお金を「触る(使用する)」ことができるという状態である。
「コントロール」とはこれまた文字どおり、そのリソースを「コントロール」できる状態である。この場合ならば、児童手当の「使い道を決定する」ことができる状態のことをいう。もっと俗に言えば、「財布の紐を握っている」ということか。

この視点はよく途上国開発のジェンダー分析で使われ、女性の社会的地位向上のためには「アクセス」権だけではなく「コントロール」権まで付与しなければいけない、といわれる。単なる「平等」をうたうのではなく、どのような権利を与えて平等というのか、という議論である。

2003年に世界銀行は、途上国開発に関して次世代の子どもの教育への影響力が大きいのは女性である、という報告を出している(World Bank ‘Gender Equality & the Millennium Development Goals’)。

途上国では教育を受けた女性の子どもの就学率は概して高い。実際に途上国で女性が手に職をつけて、もしくは職につくなどして、自分で収入を得られるようになると、その家庭の子どもの栄養状態は改善し、就学率も高くなり、衛生状態も改善するなど、その効果は世帯に及び、次世代に及ぶという。
つまり途上国では、女性が「コントロール」できるお金を得るようになると、それを子どもの栄養・教育などに投資する傾向が顕著なのだ。


長期的な視点で

さて、児童手当である。日本では、いくらお父さんの口座に振り込まれているとはいえ、お母さんにその口座へのアクセス権がないことはないであろう。財布の紐をしっかり管理しているお母さんであれば、お父さんの銀行口座に振り込まれる児童手当をどのように使うか考えて工夫をこらしているかもしれない。

でも、お父さんが財布の紐を握っている場合は? そのお父さんの育児に対する意識が低かった場合は? 3歳未満の子ども一人あたり年間12万円のお金、もしかして、お父さんの飲み代とかに消えてないだろうか?

ここまで読んで、気分を害された男性がいらっしゃったら申し訳ない。もちろん、育児に対する意識、育児にかかるお金に対する意識の高い男性は当然いる。
決して「児童手当」を女性の口座に振り込むようにすべきだ、と言っているわけではない。ただ、お金には、それを「稼ぐ人」、「使う人」、「使い道を決める人」という社会的役割をもった個々人の存在があり、その人たちのマインドひとつで活かしも殺しもされるのだ、ということである。

国が育児支援のために税金を使っても、それが「育児」に回らず使途不明金になっていた、なんてこともありうる。この社会的役割を認識せずにお金をむやみやたらに渡したり、必要な人に渡さなかったりした場合、意図した効果が得られない可能性があるということである。

いずれにせよ、児童手当のお金を「コントロール」できる人には、長期的な視点での投資や運用を考えてもらいたい。「アクセス」できる人にも、投資や運用への意識を高めてもらいたい。「コントロール」できる人にはもちろんのこと、「アクセス」できる人も含めて、あらためて「金銭教育」の重要性を感じた役所手続きであった。

注:「アクセス」「コントロール」の考え方は、ジェンダーに限らず、あらゆる社会的存在(特に社会的弱者といわれる人々)の権利や立場を分析するのに活用できる。障害者しかり、高齢者しかり、子どもしかり。成年後見制度などは、この「アクセス」権や「コントロール」権を法的に明確に定義する制度といえるかもしれない。

(2008.8.4)

『くらかね通信』 No.148 : 2008.08.11、No.149:2008.08.20発行より転載
▲ 挿絵はえすけっとくらぶ発行『障害者・高齢者 バリアフリーイラスト・カット素材集』より

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