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● FPエッセー傑作選(その5) |
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国勢調査と老婦人 |
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木下利信(正会員・FP暮らしのコツ代表) |
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昨年10月、5年ごとに実施される全国一斉国勢調査が行われました。
わずか5ヶ月前の出来事ですが、皆さんの記憶からはすっかり遠のいた話題となったのではないでしょうか。
調査結果の速報は今年6月に出される予定になっています。今回の調査は二つの点で注目を集めていました。一つは、日本の総人口が戦後初めて減少に転じたことを確認する調査となる。二つ目は、個人情報保護法施行直後で、それが調査にどのような影響を及ぼすかです。
前者については、今年1月、日本の人口は1億2776万人と発表されました。これは、前回(平成12年)国勢調査時からは83万人増加となったものの、前年(平成16年)の推計人口に比べると2万人下回っており、人口減少化がスタートしたことが公のデータで確認されたことになります。
後者の個人情報保護法の影響については、やはり国勢調査員の活動に多大な影響、変化があったことが報道されていました。次回(平成22年)の国勢調査に向かって、国勢調査そのものの意義の問い直しと、調査方法、内容を巡って今後議論が起きることと思います。
昨年10月の国勢調査で、初めて調査員を務めました。会社勤めを辞め時間管理が自由になったことが調査員応募を可能としたのですが、FPとして地域社会を理解する一助として役立つのではないかとの思いが調査員応募の動機でした。
私が担当したのは地元海老名市の一角42世帯です。たった42世帯ですが、この中には一戸建住宅、二世帯住宅、家族向けアパート、独身者向けアパート、店舗・事務所併用住宅等が混在しており、まるで街の縮図のような地域でした。
調査対象となった大半の世帯からは、さほど問題なく調査用紙の回収が出来ましたが、そうでない世帯もありました。独身者向けアパートでは夜9時、10時に再三訪問したものの、対象9世帯の内、顔を合わせることが出来たのはわずか2世帯。5世帯は顔を合わせることなく調査票の回収となりました。そして残り2世帯はついに期限までの回収が出来ませんでした。また、調査説明に伺った際、のっけから税金の無駄使いには協力したくないとか、インターフォン越しに、ドアのノブに掛けといてくれとか冷たい反応を示されたことも数件ありました。
しかし、今回の調査で一番印象に残ったのは、ある老婦人のお宅に伺ったことです。この老婦人の家は調査対象の中で一番大きな敷地で、建物もいわゆるお屋敷風情を漂わせています。
調査票を配る際、その世帯に住んでいる人数を必ず聞くことになっています。これは1枚の調査票で4名までしか書き込めないため、もし調査対象者が5名以上いた場合は複数枚の調査票を渡す必要があるからです。
この老婦人に世帯人数をお聞きしたところ「一人住まいです」との答え、そして「調査ご苦労様です」との暖かい言葉まで掛けてくれました。
事前に確認していた回収日に再び伺うと、またもや「調査ご苦労様です」との言葉を添えて調査票を手渡してくれました。調査票を入れた封筒は糊付けされているため、調査員は記入内容を見ることは出来ません。
「調査票の記入で何か分からなかったことはありませんでしたか」とお聞きしたところ、老婦人が突然こう言い出したのです。「この家に住んでいるのは"私一人"と申し上げましたが、先週末アメリカに行っていた息子が急に帰国し、現在は息子と"二人" で住んでおります。調査票にも二人として記入してあります」と、私の顔をじっと見つめながら説明されたのです。
「分かりました、それは良かったですね」との言葉を残して玄関を去りました。門にある表札を拝見すると亡くなったご主人、二人のお子様の名前がそのまま残っています。私の心中は複雑です。きっと海外にいる息子さんに電話で国勢調査員訪問の話しをした時、見も知らない他人に一人住まいなどと言ってはいけないと、たしなめられたのではないかと推測しました。
その夜、鏡の前で自分の人相をまじまじと眺めました。とても悪人には見えないのだが、と自問自答です。そして、お年寄りが一人住まいを隠さなければならない"現実"を体験し、昔と比べ信頼に対する尺度が大きく崩れていることを思い起こされました。
何時の日か、プロのFPとしてこの老婦人と同様の思いを抱いている方々から、信頼に値するFPに巡り会って良かったと言われるよう頑張る気持ちを新たにしました。
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(2006.3.6) |
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