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● 長期投資論への疑問――金融危機とFP

                         村井英一(当NPO理事、事務局長)               
 昨年7月のサブプライムローン問題を契機とした金融危機は、1年以上も続いています。アメリカはもちろんのこと、日本の株式市場も大きく下落し、日経平均株価は10月28日には約26年ぶりの水準となっています。この間の状況についてはみなさんもよくご覧になっていらっしゃることでしょう。

 ここでは、FPとして考えた、私の個人的な所見を書きたいと思います。いろいろなご意見があることと存じますが、一つの考えとしてお読みください。


◆パニック状況と資産運用の「常識」

 最近の株式相場の下落、為替の円高への推移はあまりにも早く、大きく、行き過ぎのように感じられます。同じように考えている個人投資家も多いのでしょう。株式においては、このところ個人は買い越しとなっていますし、銀行にはドルへの両替で行列ができています。ここ数日、急に戻してきているのもそのためでしょう。

 しかし、まだ不安もあります。ここ数ヶ月の状況を見ると、パニックのような売りが続いており、理屈では説明のつかない変化となっています。

 「ここで重要なのは、長期投資の視点です。短期で利益を上げようとするのは投機であり、リスクが大きくなります。しかし長期投資であればリスクは小さく、大きなリターンを得ることができます。そもそも将来の老後への備えとして資産運用を始めたのであれば、たとえ現在は損失となっていてもやがて回復しますので、目先の変動は気にする必要はありません。…」

……で、いいんでしょうか? FPは!


◆資産が半分に、FPとしての反省

 私は今回の下落にあたって、FPは反省しなければならないと考えています。もちろん、私自身が自分の行いを大いに反省する必要があります。

 最近、マネー雑誌などを見ると、FPと称する人たちが、さも当たり前のように長期投資の重要性を説き、一時的にはこのような状況もありうると説明しています。確かに、FPは長期的な資金運用をお勧めすることを使命としており、そのために短期的な上下はあるものの、リスク商品を活用することを勧めています。(私もそうしてきました。)ですから、最近のマネー雑誌などでの説明はFPとして正しい答えだといえます。

 しかし、現在のような状況(資産が半分になる)となることを踏まえた上で、以前から長期投資で勧めていたのなら、問題はありません。しかし、どれだけのFPが現在の状況を予想して説明していたでしょうか。

 マネー雑誌に登場する著名FPの多くは、昨年は(今年に入ってからも)リスク商品での運用を進めていました。予想ははずれることがあるというものの、その反省もなく長期投資のメリットを説くようでは、論点のすり替えをしているように感じます。
    

図1 1980年年末を100とした場合の推移



一番上の線がNYダウ、二番目が円建てのNYダウ、三番目が日経平均、一番下が為替です。(各種公表データより著者作成)


 結果的にですが、日本の株式は(日経平均で算出)昨年の7月の高値から3分の1近くまで下落しています。アメリカ(NYダウ)は30%程度の下げですが、ドルの下落もあり、円建てで見ると、半分近くとなっています。新興国は、今年に入ってから下げ始めましたが、国によっては日本以上の下落となっています。


◆分散投資の効果も薄い

 近年の特徴として、分散投資によるリスク逓減の効果が小さくなっています。ご承知のように、現在は先進国も新興国も株式は下落しており、不動産も下がっています。株式と連動性が小さいといわれていた金などの商品価格も下落しています。さらに、為替が円高となっていますので、海外の債券も下落しています。

 日本株、外国株、外国債券、REITと分散投資をしたのに、全てが大きく上がってしまったというような状況になっています。

 そのため、“ミドルリスク”といわれていたバランス型ファンドでも昨年の高値から40%程度も下落しています。

 長期投資だから短期の動きを気にしてはいけないとはいっても、個人投資家としては資産が半分になってしまっては耐えられないのが普通でしょう。私たちFPはその可能性までをはたして言及してきたでしょうか。恥ずかしながら、私はしていませんでした。


◆リスク許容度を超えてしまった

 『日経マネー』12月号のアンケート調査によると、「どの程度までリスクを許容できますか?」という質問に対し、最も多い答えは「−10%以上〜−20%未満」となっています。(個人投資家にWebで実施したものですので、比較的リスク許容度が大きいと思われます。)「−40%以上」と答えた人は全体の5%程度です。

 つまり、長期投資とはいっても、持ちこたえるだけの許容範囲は超えています。実際には、リスク許容度を超えてしまったために損切りができず、持ち続けている状況の方が多いのではないでしょうか。

 確かに、現在の状況は下落のスピードも速く、まれな状況であるといえます。同じ雑誌の勝間和代氏のコラムによると、日本株の1年間の平均リターンは4%で、標準偏差は20%となっています。つまり、1年間で16%以上下落する確率は16%で、36%以上下落する確率は2.5%となっています。

 このことから、「4割以上下落する確率はほとんどない」と言ってしまいがちなのですが、現実には48%下落しています。(昨年10月末より1年間)確率的に少なくても、現実に起きている状況であり、現在運用している人にとってはそれが全てです。

 近年、政府は個人に対し、資産運用で積極的にリスクを取るように勧めてきました。「日本の家計の金融資産は1,500兆円…云々」という話は、個人の資産を有効活用したいという思惑と将来の年金不安に対し、自己責任で準備してほしいという意図から言われたものなのでしょう。
 FPはその支援部隊となってしまったようにも思います。


◆日本の株式もバブルと投機

 今から思うと(本当に今から思うと…なのが口惜しいのですが)、ここ数年の世界的な資産価格の上昇はバブルだったようです。1年で2〜3倍にも上昇した新興国はもちろん、アメリカの株式相場はITバブルの頃と似ています。

 日本の株式も「割安株」バブルのような状況でした。PERやPBRといった指標では割安なのですが、この5年で5〜10倍になった銘柄が数多くあり、投機の様相になっていた面があると思います。


図2 日米の株式と短期運用を25%ずつ保有(年収益率)



* 日本株、米国株、日本の短期金利での運用、米国での短期金利での運用。それぞれ4等分して(25%)、10年間保有した場合の年収益率
    
* 一番右側は19回分の平均です。その左、2008年は10月末の時点です。長期投資と分散投資をしてもまだマイナスとなってしまいました。(各種公表データより著者作成)


◆長期投資すれば上昇しているか?
 
 では、長期投資をしていると上昇しているかといえば、それも難しいところです。NECなどのIT銘柄は8年経った今でもかつての10分の1以下です。日経平均株価は1989年のバブルから18年間経過しているのに4分の1の水準です。金の価格は、数年前に急上昇するまでは四半世紀下げ続けていました。長期で保有していても必ずしも回復するとは限らないのです。

 では、どうすればよいのかと問われると、このようなことを言っておきながら明快な答えはありません。「長期投資と分散投資の両方をしておけば、プラスとなる可能性が高いです」としか言いようがありません。

 ただ、現在のような状況となる可能性について、十分な言及をしていなかったことを反省しなければならないと考えています。これほどの下落は予想できなかったと言えばそれまでなのですが、予想していなかったことが起きるのが“現実”のようです。

 勝手な意見を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

                                           (2008.11.6)
『くらかね通信』 No.155 : 2008.11.06号より転載

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